2009年10月05日
くも
くもとは、猫の名前である。9月下旬本山で報恩接心があった折、喚鐘場としてお世話になった山内寺院で飼っている猫である。真っ白な毛並みに背中の処に薄鼠色の丸い斑点が5つある。見るからに相当年をとっており、首輪にぶら下げている鈴をちりんちりんと鳴らしながら、部屋を我が物顔に歩き回っている。私が休憩用に使わせて頂いた部屋の廊下にやってきて、ニャ~ゴと鳴いた。「くも、こっちにおいで」と言うと、全く無視して、縁側から庭をじっと眺めている。「くも、何見てんの!」と話しかけると、こちらにお尻を向けたまま長い尻尾を二度ほど、ぴっぴっと動かした。「こっちに向いて!」と言うと、再びぴっぴっと長い尻尾の先端を動かし、私のことなど殆ど眼中になきがごとき様子である。間もなくして喚鐘の時間となり、寺の灯りは全て消され、喚鐘部屋だけが明るく照らし出された。参集した雲水が次々に入れ替わり立ち替わり室内にやって来る。一人終わる事にちりちりとなる鈴の音だけが静まりかえった境内に響いている。しばらくするとちりんちりんと軽やかな鈴の音と共に「くも」が室内に入ってきて、参禅中の雲水の傍らにちょこんと座った。雲水の拝をする所作を不思議そうに眺めていたが、そのうち横にどたっと転がり、2,3回横回転を始めた。神聖な参禅室に傍若無人に浸入し、この何たる慣れっこ振り、密室だと言うことなど勿論全然解ってない。その内、こんな所にいつまで居ても面白くないな~と、言わんばかりにそそくさと出て行った。私も動物好きで、この猫にはひとかたならぬ好意を抱いていたが、どうもこの態度にはいささかむっときた。まっ、そもそもこちらがお世話になっているのだから、猫の方に言わせれば、こっちが家主だと言うことになるのだろう。兎も角室内に猫が遠慮会釈なく入ってくるなどという経験は初めてだったので、ビックリしたのと、動物の何にもとらはれない様子が誠に新鮮であった。
投稿者 zuiryo : 2009年10月05日 15:21