2012年07月15日
国民総幸福
ブータン国王ご夫妻が来日されて以来、様々なメディアでブータンという小国の幸福感が取り上げられている。元世銀副総裁の西水美恵子氏が15年前、世銀の仕事で初めて訪れたブータンで思ったことを書いている。一部をご紹介させて貰う。『ブータンを旅して「懐かしかった」という人が多い。初めて仕事で訪れたとき、細胞からにじみ出てくるようなあの懐かしさは、未だに体に残っている。近代化を急ぐ過程でわが国が失った文明を描いた「逝きし世の面影」にはこのように書かれている。幕末から明治にかけて来日した外国人による膨大な著述をもとに、日本人が西洋化にはしって失ったものを生き生きと蘇らせてくれる。「陽気な人びと」「簡素とゆたかさ」「親和と礼節」などと多面的に描く各章を読み進むにつれ、ブータンでの自分に重なった。彼らも私も同様に、国民がいろいろな形で表現する幸福感に目を見張った。1889年、来日した英国の詩人、E・アーノルドは、歓迎晩餐会のスピーチで、日本の文明を「命を甦らせるようなやすらぎと満足を授けてくれる」と評した。逝きし世の面影の著者、渡辺氏は「私にとって重要なのは在りし日のこの国の文明が、人間の存在をできうる限り気持ちのよいものにしようとする合意と、それにもとずく工夫によって成り立っていたという事実だ」と言う。ブータンの先代国王も、固有文明を重視し文明喪失の代価を国家絶滅の危機と捉えた。その背景には、インドと中国に地続きで挟まれる地政学的リスクを持つ国が、人口70万人弱の小国どころか、まとまりにくい多言語・多民族国家だという厳しい現実がある。「我が国は小人口の小さな国であるがゆえに、国家固有のアイデンティティーを守る以外、独立国家の主権を擁護する術を持たない。富や、武器、軍隊が、国を守ることはできない。国家主権の象徴たる紛れもないアイデンティティーを持たなければ、ポピュラーな異邦文明へ傾倒し、我らの文明は絶滅する。水が出た後、水路は造れぬ」。この総幸福は文明の持続的発展を国政の中心に置く、その真意が包括的な危機管理にあると知る人は少ない。日本はその逆で、政治と経済の低迷に後押しされる人材流出が国家経済を空洞化する。この数年来、スーパーシチズンという呼び名の国籍を超越する中産階級が世界中で増えている。人作りが国作りではなくなる21世紀のグローバルリスクだ。その到来にわが国の政治家が気づいている様子はない。』。実は来年ブータンに行こうと計画している。通り一遍の旅行者が果たしてこの幸福感を実感できるか疑問だが、西水氏は、「私のDNAが祖先の故郷を覚えているのだろうか」とさえ感じたと言っているが、ぼんくらぼんには無理かもしれない。
投稿者 zuiryo : 2012年07月15日 20:47