2012年08月17日
親の恩
今月に入って鉄蔵から始まり、隠寮各部屋の押し入れ戸棚タンスなど、この際徹底的に整理しようと思い立ち、この暑さの中雲水と共にやってやってやりまくった。まあ、出るわ出るわ、良くもこんなに不用な物を抱え込んでいたのかと我ながらあきれ返った。殆どが今では使わない物になってしまったので処分するわけだが、箪笥の中から腰紐が沢山出てきた。布製と毛糸の物がきちんと糸でくくってありビニール袋に整然と畳まれていた。又綿がたっぷり入った白のデンチ、紺色の夏作務衣等々、いつ母がこんなものを作って箪笥に入れて置いてくれたのか全く知らなかった。元気だった頃は春秋の季節の変わり目にやってきては、箪笥をすべてひっくり返して、綻びを縫い次の季節用に入れ替えてくれた。いつも1週間ほど掛かってやっていたが、その間何処へ出かけるでもなく、終日窓際に座り込んで飽きもせず繕いに明け暮れていた。終わると、「じゃ、帰るわ!」と言って、さっさと神奈川の家に帰っていった。「お寺は静かで良いわね~。どう、この緑の綺麗なこと!私この景色を目に焼き付けておくんだわ」。そう言って、私の寺にやって来るのが唯一の楽しみのようだった。晩年は岐阜へ出かけることも出来なくなり、私の箪笥を綺麗に整えてくれることもなくなって、あっという間に亡くなった。それから早や十数年が経った。久しぶりに箪笥を自分で整理しながら、母の思いがこみ上げてきて、ぽたぽた涙がこぼれた。生前は一言の礼も言わずに、全部当たり前のことと思っていた。墓に衣も着せられず…と言うが、本当にそうだな~と、親不孝を改めて知った。
投稿者 zuiryo : 2012年08月17日 15:14