2013年01月09日
ラフマニノフ没後70年
建長寺で教学を仰せつかっていた頃、寺史の編纂を高名な仏教学者T氏に依頼した。東京のお住まいから毎月1週間くらい塔頭の空き寺に逗留して頂き仕事をして貰った。この学者さん大変な偏屈人で、ために周囲の者は私も含めて随分振り回されたものである。それは兎も角、大変なモーツアルトファンで、一度お宅のマンションを訪ねたとき、何千枚ものレコード盤に驚嘆した。全てモーツアルトなのだそうだ。どうしてこうなるかと聞くと演奏する楽団や指揮者によって相当な違いがあるそうで、結果こうなったそうだ。先生曰くモーツアルトを聴きながら仕事をするときが至福の時間であると。心が本当に癒やされるのだそうだ。私はこの学者さんとは寺史編纂の途中で岐阜の寺に転住したためご縁は切れてしまったのだが、この言葉は耳の底に残っていた。住職してから10年間、次々難問が怒濤の如く押し寄せ潰されそうになったときが幾度かあった、そんな時ふと先生の言葉が頭をよぎった。クラシックなど凡そ縁遠い私だったが、モーツアルトのCDを片っ端から買いあさり、毎日就寝前に聞き続けた。そのうち不思議に心のもやもや も和らぎ確かに癒やされたのである。それから始まってベートーベン・ショパン・チャイコフスキー・シューマン・メンデルスゾーン・グリーク等々聞くうちに、私の肌に一番フィットするのはピアノコンチェルトだと気が付いた。あるとき知人から、ラフマニノフの2番と3番は良いですよと言われ、早速聞いたのだが、何だかとりとめの無い感じでしっくりこなかった。ところが暫く聞き続けるうちに段々良さが解ってきて、一番ぴったりくる曲になった。ある高名なピアニストと会食の折りこの話をしたら、「あなたはロマンチックね!」と言われてしまった。そのラフマニノフの没後70年、生誕140年だそうで、昔のことを改めて思い出したという次第。
投稿者 zuiryo : 2013年01月09日 16:31