2014年12月09日
江戸の風流
岸玄知という出雲候の茶道方が梅を買った話は実に面白い。あるとき郊外に遊んで、農家の傍らに梅が見事に咲いているのを見て、大金をはたいて買い取った。しかし花の下で酒を飲むばかりで、梅の木を持って行こうとしない。農夫がいつ移植するのか問うと、わが家の庭は狭く、こんな木を植える余地はない。ずっとここに置いておく。それなら実がなりましたら届けましょうというと、「我は花をこそ賞すれ、実に望みなし、汝これを取れ」農夫は驚いて、「ただ花を見るためなら、何時でも何日でもお出で下さい。お金はお返しします」と言うと、「人の花は見て面白からず、わが花にしてこそ興あれ」と答えたという。嫌味な風流気取りとも取れようが、そういう批評はともかくとして、江戸時代の人々に多かれ少なかれ、洒落た風流の気分が共有されていたことに、価値がある。今日では全く失われた気分だからである。
投稿者 zuiryo : 2014年12月09日 21:11