2016年02月24日
石中に火有り・・・
遙か昔のこと、私が伊深の僧堂で知客(しか)役を仰せつかって居た頃、老師がやって来て、「この竹篦(しっぺい)の字を小刀を使って彫りなさい」と言われた。それはいつも室内で問答の時握って居られる物で、雲水の良い見解(けんげ)の時は、この棒でビシバシと背中を叩く。その時初めて、「石中に火有り、撃たずんば発せず」と書いてあるのを知った。一字づつは大変小さな文字で、失敗したら大変と思い、結構苦労して彫り上げた。彫り込んだ部分には白い粉を磨り込むと、陰影がはっきりして、我ながら上出来と感じた。老師も、「なかなか良いじゃないか!」と褒めてくれた。そんなことがあってから遙か後、今度は自分が師家になって、室内で竹篦を使い雲水の背中を叩く側になった。ふと当時のことを想い出し、あの言葉は室内に相応しい良い言葉だと思い、今度は自分で書いて自分で彫った。この間、何と50年近くの歳月が流れたのである。
投稿者 zuiryo : 2016年02月24日 20:48