2016年05月25日
磨針峠(すりはりとうげ)
小倉遊亀の「磨針峠」の縮小版を見ている。数年前遊亀の出身地滋賀県立美術館で、全作品が網羅された素晴らしい展覧会が催された。この美術館を訪れたのは初めてだったが、紅葉の真っ盛りで、池を中心に庭園が広がり、辺りの景色を眺めているだけでも来た甲斐があった。お目当ては「径」(こみち)で、現物を見るのは初めてだったが、その大きさに驚かされ、この絵が板に描かれているのを初めて知った。念願だったのでしばし釘ずけになった。次ぎに見たのがこの「磨針峠」だった。大きな画面の左側に老婆が石を掴み金属を研いでいる、右側の若い修行僧が行脚の姿で、この老婆の仕草をじっと見つめているというものである。解説に依れば、若い僧は苦しい修行に耐えられなくなり、ついに断念して山を下りる途中である。しかしこの老婆に心を奪われ、再び山に戻る決意の瞬間を描いたものである。修行僧の凜々しい姿と老婆の凜とした佇まいの何とも言えぬ清々しさに、思わず心を奪われた。良い絵は、まさに画家の精神の表れだと感じた瞬間でもある。題材も修行僧を扱ったものだけに、自分の修行と何処か重なるところがあり、深く心に染みた。そこでこの絵の縮小版を買ってきて、机の前に飾りいつも眺めて心の戒めにしている。
投稿者 zuiryo : 2016年05月25日 04:53