2016年07月25日
昔あって、今無くなったもの
数え上げれば沢山あるが、近年凡そ「つつしみ」とか「わきまえ」がなくなった。旧久留米藩士だった老人の話にこんなのがある。在る日孫娘二人が、旧藩主の祝事に招かれ、姉妹は拝領の縮緬の紋付きを着て、行って参りますと挨拶に来た。すると老人は苦々しげに睨み付け、「ふたしなみな奴どもだ」と叱った。傍らで見ていた人が理由を問いただすと、「かようの場合は必ず召された屋敷にて衣装を着くべきものである。これは近隣世間に対する身だしなみというものである。自分の心に諮り、朋輩その他に羨(うらや)まれ、世間に目立ちはせぬかという程合いを考え、これをその身の行うことである」と語ったという。江戸時代の人は日頃からこんな「たしなみ」を気にかけて暮らしていたのである。さぞ息が詰まっただろうと現代人は想像しがちだが、一端幼少時から身につけてしまえば、何と言うことはない。率直で飾り気が無く、しかも無邪気で人なつっこさを尊んだのである。赤子のような純真極まりない人々であったのだ。
投稿者 zuiryo : 2016年07月25日 04:40