日々の暮らしの中では些細なことで落ち込んだり、かっときてしまったりして心は絶えず揺れ動くものです。 それに人生は何が起こるか分かりません。リストラや倒産、或いは身近な人の死を経験したりと苦しみや悲しみに打ちひしがれることがあります。 そんな時如何に正しい判断を下してゆくか、心のコントロールが重要になってきます。我々が悩むのは損と得、苦と楽、勝ちと負け・・・ 二つの相対する考えや感情が間をうろついたり一方に固執することが自己を苦しめる犯人なのです。これを「自我」と言います。 我々が普通心と呼んでいるのはこの自我に他なりません。では、どうしたら自我に振り回されなくなるでしょうか。 それは坐禅によって可能になります。坐禅によって体と呼吸が整えられ心も整えられと、自我で濁っていた自分の心も澄んできます。 つまり「無の心」になるのです。無とは何もないということではありません。譬(たと)えれば水のようなもので、どんな形にも順応します。 人生は晴れもあれば曇りもあります。しかし本来の自己は無ですから、どんな状況にも柔軟に応じていくことが出来るのです。「無の心」ですから、 損得や好き嫌いという相対する考えにこだわったり、中間で揺れ動いたりしません。出会ったことと一つになって生きてゆけるのです。
 
●服装
 体を余り締め付けないのが基本で、上着を脱いだりズボンのベルトをゆるめたりすると良い。アクセサリー、時計などの装身具ははずし、靴下ストッキングも取ります。女性はスラックスが望ましいですが、スカートの場合は広がるものが良い。
 
●足の組み方
 両足を組む結跏趺坐(けっかふざ)と片足だけの半跏趺坐(はんかふざ)の二通りがあります。ただし初心者の場合は結跏趺坐は難しいので半跏趺坐をお奨めします。
 
●半跏趺坐の仕方
 座布団の前で合掌、礼拝→一端座布団にあぐらをかく→両手で右足(または左足)を持ち下腹にひきよせ、ふとももに載せ、足の裏が上を向くようにする→両膝が座布団につくように体を安定させる
 
●手の組み方
 左手を内側、右手を外側にして親指を交差させ軽く握り体の中心に自然な形で置く。両肘は体から離し肩の力を抜きます。
 
●坐相の整え方
 足と手を組んだら体を前後左右に揺らし自分が一番安定する位置を決める。腰を伸ばし、腹を前に出すようにします。鼻と臍、耳と肩が図のようにそれぞれ垂直になるようにする。
 
●目線
 一度正面を見てから自分の1.5メートル先の床に視線を落とし、半眼の状態にする。決して目をつぶたり目玉を動かしてはいけません。あごを軽く引き口は軽く結び、舌を上の歯茎にあてると良い。
 
●調息
 息をゆっくり吐いたり吸ったりして整え、心を静めることを調息という。まず口を軽く結んで腹式呼吸をする。鼻から自然に出入りする呼吸を出来るだけ深くゆったりとする。次に丹田を意識する。丹田とは臍下3センチぐらいのところをさす。ここに気持ちを集中させ、腹の空気を出す。出し切ったら丹田に入れた力を抜き息を吸う。これを何回か繰り返し、慣れてくると1分間に呼吸は数回ぐらいになります。イライラ、カッカしている時は呼吸は早くなって肺だけの浅い呼吸になっています。ゆっくり呼吸することで新鮮な空気が体の隅々まで届き、心を落ち着けることが出来ます。
 
●数息観(すそくかん)
 丹田(たんでん)で深い呼吸が出来るようになったら、自分の呼吸を数える。これを数息観といいます。息を吐くとき「ひとー」、吸うとき「つー」と心の中で数える。次に又息を吐きながら「ひとー」、吸うとき「つー」と数えます。このようにして十までいったら、また「ひとー」「つー」に戻ります。坐禅の間中ひたすら呼吸を数えるのです。いろいろな思いが浮かんでわからなくなるときがありますが、そんな時はまた「ひとー」「つー」からやり直せばよいのです。数を数えることだけに意識を集中し、やがてその意識すらも消えます。呼吸と自分がひとつになると心も体も空っぽになって、物事を素直に、ありのままに見ることが出来るようになります。
 
●所要時間


 坐禅は普通一(いっしゅ)といって線香一本が燃え尽きる時間(約一時間)を一回とします。しかし初心の人はいきなり長時間は無理ですので、初めは10分〜20分くらいを目安に、ともかく坐って調身・調息・調心のときを持つことが大切です。終わるときは静に合掌してから、ゆっくり立ち上がるようにします。

 
参考資料 藤原東演著「よくわかる坐禅入門」

 

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