大事なのは観光、町おこしなのだそうだ。あの塔の基本理念は①活力ある街づくり②時空を超えたランドスケープ(土地の風景)③防災面での安心と安全─の3本柱があり、電波には触れていない。この辺り、押上周辺は東京大空襲でも焼け残り、江戸情緒のある町並みがあるので、その風景を乱さず地域と一緒に発展していければ…と言う思いが「ランドスケープ」に込められているのだ。江戸情緒とあの塔がどうからむのか、ツリーがすでに死にかけた江戸情緒にとどめをさすというのならわかるが。さて電波塔としての役目をしつこく聞くと、「その辺の事情は総務省に聞いて欲しい」との話。だが同省も「私たちは基準にのっとり許可を出すだけで、電波塔の必要性と言った話にはどの課も答えられない」。そこで二〇〇三年暮れに、「新タワー推進プロジェクト」をつくり建設を促進してきた放送六社の代表格、NHKに聞くと、「東京タワーの電波発信地点は高さ二百メートル強で、都内に二百メートル級の高層ビルが林立したため一部地域で映りが悪くなる可能性があると感じていた」と広報の男性が説く。ただし放送局側が電波塔を強く求めたのか、作る側が建てたいと言い出したのかは「鶏と卵の関係で、はっきりしない」と言う。電波塔の役割について、東武、総務省、放送局のいずれも歯切れが悪いのは、「私たちこそが求めた」という強い自主性がないまま何となく進んできたからのようである。
現時点ではみな東京タワーからの電波で地上波デジタル放送を見ているが、広範囲で見えないという話は聞かない。仮に見えなくとも、衛生ケーブル、あるいはネット、衛星電話でも見られる。NHKも映りの悪い世帯については個別に対応している。東京タワー一
本でしのげるわけだ。しかし庶民はみな東京タワーではテレビが見えなくなるからスカイツリーを作ったと思っている人が沢山居る。まっ、東日本大震災前から計画されたものだから、贅沢に浮かれてたのかも知れない。尤も我々でもしなくてもいいことをして、買わなくてもいい物を買っているから人の贅沢をとやかく言えないが、嫌なのは「これを見ないと」というあの熱狂ぶりと、これを軽薄だと教える人もいないことである。総事業費は六百億円という。元を取るのに何年かかるか知らないが、人はなぜ高い金を払ってまで高いところに登りたがるのかである。上からの風景と言ったって、余程良い天気なら別だが、高いところから見る東京の光景は似たり寄ったりで何の感動もない。
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