そこを過ぎるととたんに 空気は一変し、ぴんと張り詰めた、しかも爽やかな気配が漂う。左右は杉の巨木が林立して昼尚暗い、正面に立つ観音像に一礼、階段は右に直角に折れ、やがて芥見段へとさしかかる。
山門をくぐるといきなり 巨大な本堂が眼に飛び込んできた。右に庫裏がある。 大玄関に″止掛搭″の木札が下がっている。
さあ、愈これから雲水修行の始まりである。学生の頃から見慣れた僧堂も今日 ばかりは別の寺へ来たような気持ちであった。
出家してわずか二年の短い準備期間だったが、その間幾度も挫折し掛かった。 自分の甘さを痛感した。色々なことがあった。しかしともかく今日から頑張ろう。 そういう初々しい気持ちでいっぱいだった。
あらかじめ掛搭の作法は 教えられてきたものの、いざ本番と成るとその通り出来るか不安だった。一度大きく息を吸い込んで、玄関に脚を踏み入れた。
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