老師の全ての荷物を片付け終え、居室に一人たたずんで静かに辺りを見回すと、二羽の雉鳩が目に入った。生前老師は隠寮(老師の居室) の庭に住みついたその雉鳩夫婦を可愛がり、縁側から餌を投げ与えては啄ばむ姿を楽しそうに眺めておられた。今その主を失って静まり返った庭先に、今日もやって来ては餌を求め、ボボーボボーと鳴いている。その何とも哀しげな声が一層胸にしみて、鳴呼老師は死んでしまわれたんだなーとしみじみ と思われるのである。
修行の世界で生きるということは誠に地味なもので、毎朝三時半に起きて勤行・坐禅、掃除等ただ黙々とやるのみである。道の片隅でひっそりと咲く野の花のようなものだ。「真実がどうして伝えられるものか!」という大心老師の声が何処からか聞こえてくるような気がした。 |