遠く近く聞こえる鶯のさえずりが一層我々の心を和ませた。巡礼とは何と素晴らしいものか。この老婦人の心をこんなにまで優しくしてゆくのだ。彼女はこれまでに、どれ程多くの人達の慰めを受けたか知れない。しかしそれは却って彼女を一層苦しめることになったに違いないのだ。四国遍路をしながら婦人は自分自身でその荒れ狂う心を静める力を得たのである。禅では常に自力という。これは誰かが既に加工 した二次的な言葉や考えではなく、自分の心にダイレクトに響くものを、前向きに生きながら得てゆくことに外ならない。私はこの老婦人が巡礼を通して深い悲しみを克服してゆく姿を目のあたりにして、人間の強さと弱さが織り成す綾の如き心の風景を見る思いであった。 |