最初に吉丸先生がこれから始まる断食 について話された。人間の体は臓器も血管も全てチューブ状になっている。中でも特に腸は合計十一メートルにも及ぶそうで、そんなにも長い管がこのお腹の中にジグザグ状に納まっている。従って当然のことながら一年もすればその曲がり角には色々な老廃物が溜まる。そこで一週間も食べずに徹底的に管の掃除をする。つまりこれが断食の考え方である。ところで通常″断食″といえば所謂水断 食だが、ここのそれはちょっと違う。まず沢山の植物から抽出した酸素を水で溶いて一日三回飲み、更に一日二回おがくずに酸素を混ぜて発酵させ暖かくなったいわばおがくず風呂に入る。それは五、六メートル程の土俵のような中に焦茶色の熱を持ったおがくずが山のように積み上げられたもので、待機している小母さんがスコップで穴を掘り、そこに横たわると首だけ残して後はすっぽり埋めてく れる。これが想像以上に熱く、全身から汗が吹き出てくる。約十分、頭がボーッとする位の処でおがくずの中から這い出し、隣のシャワー室で体を洗う。それから先程の炬燵部屋へ戻ると係の人が直ぐ冷たい酵素の飲み物を出してくれる。これを一気に飲み干すと、次に三十センチ四方はある大きな布に薬が塗ってあるものをお腹に充てテープで止める。その上に直径二十センチほどの熱い布製の球をぽんと乗せる。最後に特製目薬だが、これを一滴目に落とすと、吃驚するほど痛く、目から火が出るように後から後から止めども無く涙が出てくるという代物。自分の涙で自分の目を良くするのだというのだ。以上がワンセットになっていて、これを一日二回繰り返すわけである。何も食べないのだから当然お腹はペコペコの上に、この熱い酵素風呂や熱球や目薬で、もうくたくたになる。だから後はひたすら寝るのみで、又実際よく眠れるの である。
三日目以降は毎夜七時から約二時間先生の健康についての講義があり、これがなかなか良い。健康な時にはその有り難さなど分からぬもので、誰でも「健康が一番ですな。」と口では言いながら、実際には健康のことなどそっちのけで生活している。病気になってみなければ絶対に気が付かないのである。我々は太陽が毎日決まって東の空に昇るように、自分自身も常に変わりなく元気でばりばりやれるものと信じ込んでいる。しかしそんな保証は何処にもなく、実は何時ばったり倒れるかも知れない。危ういバランスの上に体は保たれているのだ。その上困ったことに現代は誰もが誠に忙しく、高麗鼠のように働いてやっと日々の糧を得ている。とても一週間もの間、呑気に断食で暇つぶしなどしていられないのが実情である。そしてついには自分の健康のことは放ったらかしになってしまう。これがいけない。気が付いたときは既に手遅れ。何故もっと早く体のことを考えな かったのか!と臍を噛むのである。
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