彼らには感謝の念など欠けらもないのだろうか。そんな時ふっとガイドの言葉が思い出された。なるほど、お金持ち日本はその半分をアラブ諸国に提供する義務があり、それがアラブの論理だと考えれば、彼らの言い分も解らぬことはない。イスラエルとパレスチナの際限のないテロと報復、いつまで殺し合いを続ければ気が済むのかと、暗澹たる気持ちに成る。遥か遠い中東の紛争だから日本には関係ない、などと言ってはいられない。地球上何処で何が起こってもその影響は直ぐに日本にも及ぶ時代である。ではその解決の糸口は一体何処にあるのだろうか。そんな時、根岸卓郎著「文明論−文明興亡の法則」という本に出会った。結論から言えば、西欧文明の行き詰まりを解決する唯一の打開策は日本人が伝統的に育んできた「あいまい」さだと言うのだ。もう少し詳しく言うと、西欧人と日本人の思考方法の大きな違いは、脳の違いによるのだそうだ。一般に左脳は計算や分析など物事を論理的に構成して行く知的脳。一方、右脳は音楽や絵画など芸術的な方面を司る情緒脳と区分されている。西欧人は左右の脳がそれぞれ独立しているのに対し、日本人の場合は左脳の中に右脳が入り込み、左右の脳が一体化しているという。この一例が、「ききなし」で、虫の声や小鳥の囀りを単なる雑音としか理解しない欧米人に対して、日本人は、ほおじろの声を 「一筆啓上仕り候」と聞き、鶯の声を「法、法華経」と聞くのだ。また「長兵衛、忠兵衛、長忠兵衛」とメジロの声を聞き、フクロウのボーボーと鳴く声を「ポロ着て奉公」と聞きなすのである。何とも悲しげで憂いの籠もったフクロウの声に我が身を重ね合わせ、思わずポロ着て奉公となったのだ。他にも芭蕉の、「静かさや岩にしみいる蝉の声」というのもある。つまり左脳と右脳が同時に働いているところが非常に重要であ
る。日本人はイエスかノーかはっきり言わないから駄目だと、そのあいまいさを非難されてきた。しかし本当にそうなのだろうか。いや、「混沌の中に全体的な調和を創造してゆく」というふうに、むしろ積極的な意義を見出したい。
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