食品添加物
 
 最近姪っ子から、是非御一読を…と、「食品の裏側」という一冊の本を貸して貰った。小さな子供を持つ主婦としては、日常口にする食品について、我々以上に関心を持つのであろう。何気なく読み始めると、我々が知らない間に、如何に多種多量な化学薬品漬け食品を食べさせられているか知り、その内容に驚愕した。
 著者の安部司氏は元々食品加工会社に化学薬品を販売する仕事をしていた人である。では何故その彼が自分の仕事を自ら告発するような本を出版することになったかである。『その日は長女の三回目の誕生日であった。仕事を早々に切り上げ帰宅した。食卓にはミートボールの皿があり、可愛らしいミッキーマウスの楊枝が刺さっていた。何気なく口に放り込んだ瞬間、凍り付いた。他ならぬ自分が開発したミートボールだったのだ。』著者は仕事柄、純品の添加物ならほぼすべて、食品に混じり込んだものでも百種類は舌で見分けることが出来る。そのミートボールは、まさしく自分が投入した化学調味料・結着剤・乳化剤の味がした。これはスーパーの特売品として或るメーカーから依頼されて開発したもので、発端はメーカー側が端肉を安く大量に仕入れてきた事から始まった。
 端肉というのは牛の骨から削り取る、肉とも言えない部分、現在ではペットフードに利用されているものである。その
ままではミンチにもならないので、この端肉で何か作れないかという相談であった。

元の状態では形はドロドロ、水っぽく、味もない。そこでまず、安い廃鶏のミンチ肉を加え、増量しソフト感を出すために組織状大豆タンパクも加える。これでベースは出来たが、このままでは味がないのでビーフエキス・化学調味料などを大量に加え味付けをする。さらに歯触りを良くするためラード・加工でんぷんを投入、結着剤、乳化剤も入れる。色を良くするためには着色料、保存性を上げるために保存料PH調整剤、色あせを防ぐために酸化防止剤も使用。以上でミートボール本体の出来上がりだ。これにソースとケチャップをからませるのだが、市販のものは使わない。採算が合わず、値段を安く出来ないからだ。コストを下げるためには添加物を駆使してそれらしいソースを作らなければならない。まず氷酢酸を薄めカラメルで黒くし、それに化学に調味料を加えソースもどきを作る。ケチャップの方はトマトペーストに着色料で色を付け、酸味料を加え粘着多糖類でとろみをつけケチャップもどきを作る。このソースをミートボールにからめて真空パックに詰め加熱殺菌すれば商品の完成。以上で添加物は20〜30種類は使っている。もはや添加物のかたまりで、このミートボールは原価が大体20〜30円で、売値は1パック百円弱となる。発売以来忽ち大ヒット商品となり、メーカー側は笑いが止まらないという次第。本来なら使い道がなく廃棄されるものが食品として生きるのだから、環境にはやさしいし、一円でも安いものを求める主婦にとっては救いの神である。使った添加物は全て国が認可したものだから、食品産業の発展にも役立っているわけである。しかし自分の子供には絶対食べて欲しくないというのだ。
 或る工場長は、「俺のところの特売用ハムは駄目だ。とても食べられたもんじゃあない。」また漬け物工場の経営者は、「価格破壊の商品とはいえうちの漬け物は食うなよ。」塩漬けされた黒ずんだ野菜を漂白したあげく合成着色料で色を付けて誤魔化している。レンコン会社の社長は「あのレンコンは自分では食べない。真っ黒な廃材のような色をしたレンコンが、薬に漬けて一瞬のうちに真っ白になる過程を見ればとても口に出来ない。」という。またある時、アジの干物を作っている工場のパートのおばさん達に割引で買える社内販売カタログが回ってきた。そこには自分のところで作ったアジの干物と、こだわりスーパーのアジの干物が掲載されていた。パートさん達は全員こだわりスーパーの方の干物を選んだという。自分たちの工場では次々と白い粉を大量に流し込んだ添加物の液体にアジを漬けて作る。中には刺激臭のあるものもあり、ゴボゴボ咳き込みながらの作業である。おばちゃん達は専門的な知識などないが、わけの解らない粉を大量に溶かし込んで作った干物は本能的に気持ち悪
いから、食べないのである。

  添加物を最も多く使う食品のベスト2は明太子と蒲鉾だそうだ。ここまで読み進んできて、今更ながら愕然とした。しかし一方では添加物の恩恵も受けていることも忘れてはいけない。自分で作れば何時間も掛かるものが、加工食品なら五分で出来る。本来なら直ぐ腐ってしまうものも長持ちしていつまでも美味しく食べられる。安さ・手軽さ・便利さ、それら全ては食品添加物があってこそである。そこで矢っ張り安い方が良いということで添加物だらけのものを選ぶか、高くても無添加のものを選ぶか、それは消費者の自由である。しかしその判断をするための情報公開は必要であり、事実を知ることは消費者の権利ではないだろうか。主婦でない私ですらこれだけ関心を持つのは、食は生活に密着しているからである。皆さんにも、もっと関心をもって欲しいと思っている。
(参考資料・安部司著「食品の裏側」・東洋経済新報社刊)

 

 

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