特に嬉しかったのは、彼が有能な整体治療師なので、毎日朝晩二回、私の体を治療してくれたことだ。そんな折り、彼にこんな質問をしてみた。ある人から不眠症の解決法として、左右小指の内側真ん中に、七ミリ四角に切った冷シップを張ると、とても良く眠れるようになると聞いた。早速試してみると効果抜群、すっと寝就くことが出来た。これは道理に適っていることなのか。すると彼は言下に、「適っている」と言った。但し、張る場所は小指に限らず中指でも人差し指でもどこでも良く、大きい
さも七ミリ四角に限らないというのだ。それはどういう事かと尋ねると、生物がこの地球上に出現したのは今から約三十
数億年前、海の中に単細胞の生物として現れた。それが徐々に進化し、地球が灼熱地獄のようになった時も、また全面凍結した時も生き延び、環境に適応しながら進化し続け、遂に今日の人類が出来上がった。だから人間の体は発達をなし遂げた超精密機械なのである。
最近ロボット技術が発達し、人間そっくりに歩いたり駈けたり踊ったりするものまで現れて驚かされたが、あれは壁の後ろに居る技術者が膨大なコンピューターを駆使し操作しているので、考えてみればあの程度の動きは人間なら四、五歳児でも難なくやってのける。もし、人間をそのまま再現するロボットを作ろうと思ったら、高層ビル全部にコンピューターを詰め込むほどの機械が必要になるのではあるまいか。それでもまだ人間の動きだけを再現したに過ぎず、脳の働きまでを考えたら殆ど不可能に違いない。これ程までの精密機械を我々一人一人が既に持っているわけで、人間そのものの秘められた無限の能力を改めて感じずにはいられない。そこで彼が続けて言うには、自分のやっている整体治療にしても、その冷シップによる不眠症解決法にしても、どうやっても必ず効果はあるに決まっているというのである。「自分の整体治療なんて出鱈目です。」と断言した。それなら何故効果が現れるのかであるが、それは「安心の注射だ。」と言うのだ。人間、誰でも心の中に安心と不安という、全く相反したものが同居している。そのどちらか一方に針が振れることにより、健康になったり病気になったりする。つまり不安に傾けば、自信を失い気分は落ち込み、お先真っ暗、意欲喪失、結果あっちこっちに不具合が出てくる。
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