例えば狂牛病だが、米国のボールダーでは有機食材のみを販売するオーガニックスーパーがしのぎを削っている。ここに食肉を卸しているメーカー、コールマン・フーズ社は牛に動物性飼料を一切与えていない。総て植物性でしかも有機栽培された物に限っている。成長ホルモンや抗生物質も一切投与していない。コールマンビーフは、普通の牛肉に比べてどれ位割り高になっているのだろうか。一割か二割五分である。これこそがボルダー市民が支払う安全のコストなのである。戦後間もない頃の日本人のエンゲル係数は六十パーセントだったのが、現在では二十パーセントにまで低下している。これは豊かさが増したことの指標なのだろうが、所得が伸びたのも事実なら物価が上昇したのも事実である。エンゲル係数の背景には、一円でも安ければ迷わず選ぶ消費行動があるのではないだろうか。それと引き替えに、我々が失ったものは、どんな添加物がどれだけ入れられているか殆ど知る術もなくなったことである。着色料・香料・甘味料・保存料・酸化防止剤等々、人体に急激な影響を及ぼさないレベルなら使用して良いことになっているが、使用許可と安全はイコールではない。長期間摂取で生ずる問題、複合作用等について調査が済んでいるとは言い難い。例えばハムやソーセージに使われているソルビン酸という保存料は細菌の増殖を防ぐ働きがあるのだが、食品に付着している雑菌を制圧する位なら私たちの腸内細菌も制圧するだろう。腸に対して何十年も負荷をかけ続ければ当然何らかの変質が出てくる。
又遺伝子組み換え食品も同じである。まったく別の遺伝子を導入された植物や動物の平衡系は乱され、生物は平衡を取り戻そうと通常とは違う別の反応をするだろう。本来あっては困る新しい物質が作られるかも知れない。アメリカで大量に生産されている遺伝子組み換え作物の大部分は、家畜の飼料になっているが、その飼料で育てられた家畜の肉を食べているのである。アメリカのモンサント社というバイオテクノロジー企業がある。ラウンドアップという強力な除草剤を開発した。そこでラウンドアップに耐性を持つ遺伝子を大豆に組み込んだ。大豆を畑に播いてヘリコプターからラウンドアップの除草剤を撒いておけば農作業は手間いらず、これでモンサント社は遺伝子組み換え大豆をラウンドアップとセットにして世界中に売れば、毎年一人勝ちとなる。 |