文藝春秋の連載「三国志」宮城谷昌光著が構想十年、連載十二年、畢生の大作が完結し、完成記念のロングインタビューが七月号に掲載された。私も二十代の頃この大作を読破したことがあるが、さてそれで内容はどうでしたかと問われると、やたら壮大で多岐にわたるドラマで、何とも表現のしようがないと言うのが実感である。そこで著者のインタビューを通して、三国志が現代社会に問いかけるものと言う視点で幾つか取り上げてみたい。三国志は後漢末から三国時代にかけての約百年間、漢から魏、蜀、呉へ、そして晋へと移り変わる時代の物語である。その間権力保持者は頻繁に入れ替わり、群雄割拠し、人間関係もめまぐるしく変転を続ける。その複雑さこそが三国志の魅力であり、後漢王朝の混迷の中、曹操や劉備のように、昨日まで無名の人物が、気が付くと天下の情勢を左右する存在となり、一方昨日の英雄が明日には時代遅れの守旧派として時代に埋没していく。そんな真実の細やかなひだが、鮮やかに浮かび上がってくるところが、この物語の最大の魅力である。
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