二十一世紀はバイオの世紀と言われている。日本の最大の弱みは、国民のバイオに関する知識レベルが低すぎることにある。ある新聞にこんな文章が載っていた。「三十六億年前、最初の生命の糸(DNA)は、熱湯のわき出す海の中で生まれた。この糸には遺伝子情報が記録されており、正確にコピーされ、次の世代に伝達される。それでわかった。日本人が温泉好きなのは、三十六億年前の熱湯の噴き出す海の記憶が遺伝子に宿っているせいである」。こんなことがわかってもらっては困るのである。遺伝情報が伝わることと、記憶が伝わることは、全く次元が違う。何故なら熱水から生まれた遺伝子は日本人の祖先であると同時に、北極熊や南極のペンギンの祖先でもあるのだから。
アメリカでは物理学的世界観から生物学的世界観への大転換が進行中である。アメリカと日本では、生物学を学ぶ学生の数において、二十倍以上の差があり、今後ともその差は開く一方である。遺伝子組み換え食品をめぐる騒ぎを見ても、その議論の水準の低さに驚くばかりで、たいはんは無知蒙昧丸出しのレベルである。報道する記者のレベルも低いから、誤った見解が拡大再生産される。例えばこんな質問がある。「遺伝子を食べて、胃の壁を抜けて体内に入り、癌を起こしたりすることはないのですか。」では遺伝子を食べたことがないかと問うと、ないと言う。しかし実際にはトマトや刺身を始めあらゆる食品に何億という遺伝子が入っていて、それを日々食べている。しかし全て消化されてしまう。つまり遺伝子というと、何か遺伝する物質というイメージが強いのだが、遺伝子そのものを食べても遺伝するわけではない。我々は食品の中の遺伝子が何十億も入っている食品を食べているが、食品の中に入っている遺伝子によって、人間が変わったということはない。それは人類の歴史が証明している。何も知らないとそういう心配をしてしまい、遺伝子組み換え食品議論では、荒唐無稽な心配をしている人がたくさんいる。まともな危惧もあるが、ミソもクソも一緒のレベルになっているので、対応する側もミソもクソいっしょの対応をしてしまって、議論のレベルがさっぱりあがらない。これが日本の現状である。
遺伝子組み換え食品は環境においても、食品の安全性においても、デメリットよりメリットのほがはるかに大きい。遺伝子組み換え作物は、農薬、特に殺虫剤を確実に減らす。農薬には発がん性、催奇性、環境ホルモン効果などの毒性があり、殺虫剤や除草剤の方がはるかに人間の健康にとって危険なのである。遺伝子組み換え食品にはそのような危険性はない。特に日本農業はひどい農薬ずけ状態にある。ダイオキシン大国になってしまったのも特に稲作において、大量の除草剤が使われ続けてきたからである。日本近海の魚がダイオキシンを異常に蓄積させているのは、田畑の除草剤が最終的に海に流れこんでいくからである。このような農薬ずけ状態を救うためには、稲に遺伝子を導入して、あまり農薬を使わないですむようにするしかない。農薬をいかに減らすかは、世界的に環境問題の最大のテーマである。最終的な解決は生物学的方法しかないだろうと言われている。 |