第三十七回  開講
 僧堂では一年を四等分し、三ケ月毎に制中・制間を交互に繰り返しながら日程が組まれている。僧堂によって多少違いはあるものの、二月一日〜四月三十日まで制間、五月一日〜七月三十一日まで制中、八月一日〜十月三十一日まで制間、十一月一日〜一月三十一日まで制中、と言うのが一般的である。制中は専ら修行をし、一ケ月毎に一週間の大接心が組まれ、平生より集中的に坐禅修行をする。一方制間は修行に強 弱を付ける意味でも、それがやや緩やかになり、前半の一ヶ月半の間に師匠から暫暇願書が出されれば、一週間から二週間程度の暇を貰い、それぞれ自坊に帰ることもできる。現在は小僧制度は殆ど無くなったので、暫暇はそのまま休暇というのが実態だ。しかし私などは小僧だったから、授業寺に戻っても、そこではまた小僧生活が待っており、とても骨休めと言えるものではなかった。それでも規矩でがんじ搦めになっ
ている僧堂生活から開放され、違った空気を吸えるだけで、気分が変わってとても楽しいものだった。

『雲水日記』画:佐藤義英
発行:(財)禅文化研究所

 さて開講とは制中に入る時、第一回目の講座を開くことで、学校で言えばちょうど始業式に当たる。僧堂会下の和尚や関係寺院が集まって、向こう三ケ月間の無事修行を祈願する。まずはお経を本尊・講録師・開山・世代・火徳と順に詠み、次ぎに講座台に上られた老師から開講の偈頌が高らかに唱えられる。次に講本を披き本日講ずる所を読み、三十分ほど提唱があった後、老師は四句誓願文中に講座台より降りて正座し、座具を畳み念珠中啓をその上に載せる。後方より知客が、「一衆触礼〜」と大声で報ずると、皆一斉に低頭する。
 引き続き会中祈祷大般若が行われる。予め祭壇には生霊具謄・御神酒・果物・餅が供えられている。また各寮舎に貼る大般若札も朱盆に載せられ、懇ろに香を焚きそれらの品々が空ぜられ式が始まる。まず般若心経三巻が詠まれ、次ぎに参加者全員で大般若経六百巻の転読を始める。この時一巻つづつ、けたたましい声を張り上げて祈祷するので、初めての者は度肝を抜かれる。六百巻を全員で手分けして繰り終わると、次ぎに観音経・大悲呪・消災呪等々のお経が詠まれて開講式は終了である。この後、書院で饗応の祝膳が供され、参加者全員で頂く。
 開講はいよいよ本格修行の始まりの日であり、直ぐに大接心も設けられているので大変緊張する日でもある。雲水にとって開講は節目の大切な行事であり、僧堂全体としても一制の無事を願い、存分な修行が出来るよう、環境を整える決意の日とも言える。僧堂修行は多くの関係者に見守られ、支えられながら成り立っていることを忘れてはならない。厳粛にして溌刺とした雰囲気の中、こうして修行シーズン開幕が告げられるのである。


 

 
 
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