制中三ケ月が間もなく終わりになる頃、起単留錫がある。その日はまず午前九時から講座があって、老師から起単留錫の心得について丁寧な説明がある。これは一制中の勤務評定のようなものなのだが、批評する方もされる方も決して私心を持ってはいけないこと、また特に批評される者は異念を差し挟まぬ事、よく真意をくみ取り、これからの修行に生かしてゆくこと等である。
本堂上間の間、正面に知客・左右に紀綱と直日が座り、其の真ん中に進み出て、起単か留錫を告げ、名前を書く。起単は道場を去ると言うことだから、通常その欄には書かず、留錫欄に書くことになっている。書き終わり低頭すると、「留錫とあらば一料簡願い起きます」と言って、一制中に気が付いたところを腹蔵なく言う。修行は集団生活をしながら、一方では己事究明で、ひたすら自分自身の内に向かって極めて行くことだから、ややもすると利己主義に陥りやすく、人のことなど知ったことかになりがちである。しかし皆が勝手なことをしたら収拾がつかなくなるばかりか、本人には悪げは無くとも結果として周囲の者に迷惑を掛け、他人の修行の妨げに成るのである。
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