十一月下旬、ぼつぼつ木枯らしが吹き始める頃、恒例の大根鉢がある。数キロ四方は殆ど農家で、どこの畑にも大根が植えられているので、托鉢をするには好都合である。
明日は大根鉢と予告されると、引き手は門前のお百姓さんの家に行ってリヤカーを借りる手筈を整えておく。当日は粥座が終わると直ぐに法衣に脚絆、草鞋を履いて玉襷を取り、腰上げをして前日約束の家に行く。三人一組で、大抵は末単の者がリヤカーを引く。小一時間して現場に到着、「大根鉢に参りました〜!」と大声で言うと、その時期恒例の行事なので、どこのお宅も既に四、五本荒縄で縛って用意してある。
それを頂きまた次の家へという具合に托鉢をして、頂いた大根は農道の隅っこに置いておくと、後からリヤカーを引いてくる者が積み込む。この繰り返しでほぼ集落を一軒残さず終わる頃には、リヤカーは大根で山盛りとなる。十時半前後、庵主さんのお寺で草鞋を付けたまま庭先に腰掛けて点心を頂く。朝食はずるずるの麦粥だけだから、空きっ腹にドスンとご飯が落ちる満腹感は、何より幸せな気持ちになる。食後、早々に重くなったリヤカーを後ろから二人が押して来た道を戻って行く。寺に到着したら直ぐにざっと泥を落としてハザに掛ける。こうして各組が次々に帰ってくるので典座辺は大根で溢れかえる。早い組の者は大根を洗ってなるべく薄くスライスして、蕪の葉を切ったものと一諸にして、その上からさっと塩を掛け重石を乗せて置くと、翌日には浅漬けが出来上がる。たったこれだけなのだが実に美味しい漬け物となる。 |
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